「はい、じゃあ今から敬語やめてみようか」


私が手をパン、と叩いて松崎くんに笑いかけると、彼は何度か咳ばらいを繰り返したあと笑いをこらえたような声で話し出した。


「こ、ここ最近……寒くなってきたけど、どぉ?」


「あはははは!」


思わず声を出して笑ってしまった。


こんなに笑ったのはもはや何年ぶりかもしれない。


「そんなに笑わなくても……」


若干ショックを受けているのか、肩を落とす松崎くん。


笑いすぎて涙が出そうになりながら、どうにか言葉を返す。


「だって、話題がおかしくない?」


「急に敬語やめろって言うから、こっちだって何話していいか分からないよ」


「ほらほら、その調子」


松崎くんをからかうのが趣味になってしまいそうだった。


ようやく笑いがおさまった私を見届けた松崎くんは、とても優しい笑顔で


「西山さんが笑ってると嬉しい」


と言った。


敬語でもそうじゃなくても、彼は本当にストレートに気持ちを伝えてくるから、照れてる暇も無い。


余計な飾りの言葉じゃなく、その時伝えたいことを言ってくれる人。


私も今の気持ちを伝えてみようかな。


「ね、手、繋いでみよっか」


私は少しドキドキしながら彼に右手を差し出してみた。


松崎くんはすぐに左手で私の手を握ってくれた。


その手はとても温かかった。