薄いグレーの壁が特徴的なアパートで、駐輪場には何台か自転車が停まっていた。


松崎くんはいくつか部屋が並ぶ1階の一室の前に立ち、鍵を開けようとしていた。


ドアの前に折りたたみ自転車が置いてあるが、これは松崎くんの物なのだろうか。


彼がどんな部屋に住み、どんな生活をしているのかあまり予想ができなかった。
あまり自分のことを話さないせいもあるけれど。


「どうぞ」


部屋のドアを開けてもらい、私はおそるおそる中へ入った。


玄関を入ってすぐ小さいキッチンがあり、奥に部屋があるようだ。


「電気つけますね」


後ろで松崎くんが電気のスイッチを入れたようで、パッと明るくなった。


きちんと片付けられているキッチンには、前に購入していたコーヒーメーカーが置いてあった。


キッチンを抜けてもう一つ扉を開けると、思っていたよりも広い部屋が目の前に現れた。


「えー!すごいキレイ!」


思わずそんなことを言ってしまった。


「そんなことないですよ」


松崎くんは首を振って否定していたけれど、男の子の部屋にしてはかなり綺麗に整頓されている部屋だと思った。


「松崎くんって几帳面なんだね」


「自分ではガサツだと思ってますけど」


「ううん、几帳面だよ!部屋のキレイさが物語ってる」


私が感動していると、彼はキョロキョロと部屋を見渡してから申し訳なさそうにベッドを指さした。


「あの、ソファとか無いんで、ベッドに座っててください」


「床でいいよ」


「ダメです。フローリングだから冷えますよ」


そんなの気にしないのに。


私は言い返すのはやめて、言われた通りにベッドに腰掛けた。


キッチンに行った松崎くんを見送り、私はなんとなく部屋を見回す。


先月、登山の時に着ていたグリーンのアウトドアウェアがハンガーに掛けられていた。


アウトドア用品がインテリアのように置かれているのもなんとなく部屋の雰囲気に合っているのかもしれない。


棚の上に飾られている写真は山岳部のみんなで撮ったもののようだった。