カフェを出て、私はすぐに松崎くんに


「お願いがあるんだけど」


と申し出た。


「なんですか?」


「松崎くんの家に行ってもいい?」


その瞬間、彼の顔がとても驚いたような表情に変わり、そのあとすぐに気を取り直したのか元に戻った。


今日の松崎くんは今までにないくらい色々な表情を見せてくれるなぁ、と心の中で微笑ましく思う。


「はい、もちろん大丈夫です。来てください」


松崎くんはうなずいて、「こっちです」と歩き出した。


私の住んでいるアパートとは反対方向のようだ。


「急だったし、別に断ってくれても良かったんだよ」


隣を歩く松崎くんに、念のためそう言ってみる。


すると彼は


「断るわけないじゃないですか」


と笑った。


「最近ハマってるコーヒーがあるので、いれますから」


無類のコーヒー好きな松崎くん。
コーヒーメーカーを買うのに付き合ったこともあった。


まだ人通りのある路地を進み、駅前のカフェから15分ほど歩いたところに彼のアパートがあった。


「言っておきますけど、狭いですよ」


「気にしないよ」


学生なんてそんなものだ。
私だって大学生の時は6畳ワンルームの狭い部屋に住んでいた。