和仁も私と話をしたがっている?


私と和仁は、騒がしい宴会の中で静かに見つめ合っていた。


「ね、遥!ユリ結婚するんだってよ~」


隣で澄子が話しかけてきて、私は和仁から目を離した。


慌てて視線を戻したけれど、彼も同じように友達に話しかけられたらしく、もうこちらを見ていなかった。















宴会も終盤にさしかかった頃、私はバッグを手に席を立った。


トイレに入って、携帯を取り出すと着信が入っていた。


松崎くんからだった。


こんな時に電話をかけてくるなんてどうしたのだろう。
思わずドキッとした。


彼は今日が例の飲み会の日だと知っているはずなのに。


何か急ぎの用事だろうか。
かけ直すべきか迷った。


腕時計で時間を確認すると、宴会が終わるまであと30分も無いほどだった。


終わってからかけ直そう。


携帯をバッグにしまい、トイレを出た。


すると、通路に和仁が立っているのが見えて立ち止まった。


彼も私に気がついて、壁にもたれていたのをやめてこちらに近づいてきた。


「さっき席からいなくなったの見かけたから、話が出来るチャンスかと思って……」


「うん。ありがとう」


私はうなずいて笑みを浮かべた。


自然に笑えているか少し不安になったけれど、今は頑張らなくちゃと思った。


「遥。ごめんな」


懐かしい和仁の「遥」と呼ぶ声。
この声が、私は大好きだった。


「直接ちゃんと言いたかった。ごめん」


「うん。わかってる」


大丈夫。分かってる。
5年も付き合ったのだから、あなたの事は分かってる。
あなたはそういう人だ。


ずっとずっと私に、しっかり謝りたかったはずだ。
あなたはそういう真面目なところがあるから、謝らないと気が済まなかったよね。


「今日、私がここに来たのは、あなたにちゃんと謝ってもらうため。そして、私がちゃんとあなたにお礼を言うため」


私の言葉を聞いて、和仁は「え?」と驚いたように聞き返してきた。


「5年間、すごく楽しかった。私と付き合ってくれてありがとう。それを言いに来たの」


「なんで……そんな」


「私ね、好きな人ができたの」


和仁の目に私はどう映っているかな。
少しは成長出来ているといいな。


「だから、和仁と会うのは本当に本当に、今日が最後。もうこういう集まりがあっても、私は来ないから」


だから、もう大丈夫。
和仁ももう悔いはないよね?
お互いに言いたいことは伝えたよね?


思いが通じたのか、和仁も優しく笑った。


「そうか。分かった」


「幸せにしてもらうんじゃなくて、幸せにしてあげたいんだ」


「……」


「和仁も、彼女を幸せにしてあげてね」


私が彼に笑いかけると、和仁は力強くうなずいた。


「あぁ。そうだね。……遥、少し変わったな」


その言葉は最大の褒め言葉だ。


「ありがとう」


私はお礼を述べて、「じゃあ」とその場を離れようとした。


和仁が行こうとする私に、声をかける。


「さよなら」


私は振り向かなかった。


もう振り向かない。







ありがとう。
さよなら。