「私と元彼が別れた理由はね、彼に他に好きな人ができたの」
私は松崎くんと出会う前までの、本当に本当につらかった毎日を思い出しながら話した。
「私は当時、彼と結婚するんだと思って生活していて、彼の心境の変化にも全然気づかなくて……急に好きな人が出来たから別れようって言われた」
話しているうちに、突然別れを告げられた時の涙も出なかった自分が不意に思い浮かんだ。
抜け殻とはまさにあの状態なのだ。
あの時に味わった悲しくて苦しくてつらい思いを、私はもう二度と体験したくなかった。
松崎くんに目を向ける。
「松崎くんの今の気持ちが、絶対に変わらないって言い切れる?また目の前から好きな人がいなくなったりしたら私は」
私が言い終わらないうちに彼は
「変わりません」
と遮った。
「そんなの分からないじゃない」
「絶対に変わりません」
「どうして言い切れるの?」
「俺はあなたが好きです」
この会話の流れで、そう来ると思っていなくて私は驚いてしまった。
「好きです」
「ちょ、ちょっと待っ……」
「待ちません。好きなものは好きなんです。変えられませんし、変わりません」
どうしよう。
どうしたらいいの。
松崎くんはいつもの優しさを封印しているかのようだった。
そして、私の迷いはおそらく顔に出ていたのだろう。
「じゃあ、西山さんは俺のことをどう思っていますか?」
松崎くんに問いかけられて、私は目を背けようとした。
「俺の目を見て」
そう言われて、どうにも彼から目を離すことはできなくなってしまった。