だって、和仁との思い出は沢山ありすぎて、頭の引き出しに入りきらないくらいありすぎて、隙間から溢れかえっていたのだ。
何をしていても、何もしていなくても、頭にこびりついて離れない和仁との日々。
だけど、今はどうだろう?
和仁のことを考える時はあっても、そうじゃない時間の方が圧倒的に増えた。
「今日、西山さんが言ってた言葉」
ふと松崎くんが思い出したように、
「登山の途中で、こんな世界知らなかったなって言ったの覚えてますか?」
と尋ねてきた。
たしか私が言った後、松崎くんが何かを言いかけてやめていて、なんとなく気になったからそれは覚えている。
「うん……。覚えてるよ」
「登山なら俺がこれからいつでも案内しますから。楽しいって思えるようにします」
「松崎くん」
これ以上優しい言葉をかけられたら、私はもうダメだと思う。
甘えてしまう。
昼間に彼の友達のエミという女の子が、私のせいで松崎くんが苦しんでいたと話していたのを思い出す。
「私の話も聞いてくれる?」
きちんと話さなければならないことがある。
私のせいで苦しませたのなら尚更、彼には伝えないといけない。
松崎くんが不安そうにこちらを見ているのは分かった。
「私と元彼が別れた理由を話したいの」
隠さず話そう。
そして、私がどうしたいのかもすべて話そう。