「俺は……西山さんと一緒にいられるだけで楽しいですし幸せです」
松崎くんはとても落ち着いた口調で、でもハッキリと話していた。
初めてちゃんと聞く、彼の気持ちだった。
「食事や映画に誘って、OKをもらえて、それでもなんだか実際に会えるまで本当に来てもらえるのか不安で。毎回、待ち合わせ場所で西山さんの姿を見つけると、良かった、来てくれたと思ってました」
私は自分の胸が熱く、苦しくなるのが分かった。
彼が今までどんな思いで私を誘ってくれていたのか、考えもしなかった。
「今日も、本当は……」
松崎くんは言いかけて私から視線を外す。
「本当はずっと、いつまでも手を繋いでいたいと思ってました」
そうか……。
あの時、手を繋いだ時、ドキドキしていたのは私だけではなかったのか。
出会った頃、松崎くんは喜怒哀楽があまりはっきりしていない人だと思っていた。
でも本当はそうじゃなくて、もしかして私を困らせないように……気を使わせないように抑えていただけなのかもしれない。
「西山さんには、忘れられない人がいるんですよね」
という松崎くんの言葉が私を我に返らせた。
顔を上げた私に、彼が問いかける。
「前に付き合っていた人を忘れられないのは分かっています。でも、その人の何が忘れられないですか?」
何を忘れられないのか……。
私は答えに詰まってしまった。
「そんなの考えたことも無かった」