地獄のような岩場を通り抜け、私はやっと心臓が少しだけ落ち着いたような気がした。
岩場を脱出したと同時に、私たちは繋いでいた手を離した。
「松崎くん、呆れたでしょう?」
そんなことを言いながら、下り坂になった道を歩く。
「何がですか?」
「私の運動神経の無さに、呆れたかなぁって」
松崎くんは笑って首を振った。
「西山さんは登山初心者なんですから、気にしないで下さい」
そうは言ってくれるけれど、たくさん登山をしてきた松崎くんにとってこの私との登山は楽しいものなのだろうか?
むしろ私が危なっかしいことばかりして目を離せないから、疲れていないか気になってしまうほどだった。
「あとはもう岩場はありませんから安心してください。歩く時はつま先から、ですよ」
松崎くんに念を押されたため、私はうなずいてつま先からおりて歩くように気をつけた。
「これを普通に歩くと足を痛めたり、膝を悪くしてしまうんです」
インストラクターのような彼の分かりやすい解説を聞きながら、私はふと木に囲まれた辺りを見渡した。
「松崎くん」
名前を呼ぶと、彼は不思議そうに私を見た。
「登山って、怖いけど……すごく楽しいね」
ここまでの道のりを思い出してつぶやくと、松崎くんは嬉しそうに笑った。