「レジャーシート持ってきてますから、ご飯食べましょうか」


松崎くんは多くの登山者たちがシートを広げてご飯を食べているエリアへ入ると、荷物の中からシートを出した。


広げたシートに腰を下ろした私は、リュックの中からおそるおそるお弁当を出す。


「ねぇ、松崎くん。私、自炊はしてるけどそんなに料理の腕に自信があるわけじゃないの。だからね、その……期待しないでほしいんだよね……」


さっきとても感動して喜んでいた彼には申し訳ないけれど、あっと驚くような飛び抜けて美味しい物は作れないし、劇的な創作料理も出来ない。


念のため先に言い訳をしておいた。


私の必死な釈明を聞いた彼は優しい笑みを浮かべる。


「分かりました」


その顔は私の心を読んでいるな、となんとなく感じ取れた。


松崎くんの分のお弁当とおにぎりを渡し、ついでにお茶も添えた。


「至れり尽せりです。ありがとうございます。早速いただきます」


「どうぞ」


私も自分のお弁当を開けて、おかずを口にする。
同じように彼もおかずを頬張った。


「とても美味しいです」


「ほんとかなぁ」


「本当です」


嘘を言わないのは知っているから本当だということは分かるのだけれど、気を使わせていないか心配だった。


「多めに作ったから残してもいいからね」


「残しませんよ」


パクパク食べてくれる彼の姿を眺めて、色々葛藤はしたけれど思い切ってお弁当を作ってきてよかったと思った。


心地よい風に吹かれながら、賑やかな登山者たちの中に混ざって楽しく過ごせた。