そういえば、松崎くんはいつも私を誘ってくれるけれど、以前言っていたことがある。


「毎回断られるんじゃないかって、不安です」


確かにそう言っていた。


申し訳ない思いに駆られていると、彼が思い出したように


「カメラで景色撮りますか?」


と聞いてきた。


「あ、そうだね。カメラ持ってきたんだ」


リュックからデジタルカメラを引っ張り出して、電源を入れた。


「景色をバックに撮りますよ」


と、松崎くんが手を差し出してくる。


「あたしは写らなくていいの。景色だけで」


「え、どうしてですか?」


だって写真ってどう表情を作ればいいか分からず、いつも微妙な表情になってしまうから。


「いいの、ほんとに。景色だけ撮るの」


ブンブンと首を振っていると、横からやたらと声の大きい大柄な体型のおじさんが声をかけてきた。


「なんだ、撮ってあげるから。ほらほら」


と、私に向かって手を差し出す。


「えっ、で、でも」


いいんです、と私が丁重に断ろうとしているのにおじさんはグイグイ強気で近づいてきてカメラを手に取った。


いや、取られたという表現の方が正しいかもしれない。


「ほらほら、大丈夫だから。手ブレに気をつけるからね。さぁさぁ、二人とも寄って寄って」


おじさんのパワーに圧倒されて、私と松崎くんは思わず言われた通りに二人で並ぶ。


カメラを構えたおじさんが不満そうに眉を寄せて


「ダメダメ、ほらほら。景色写らなくなるから二人とももっと近づかないと」


と指示する。


「もっと?」


私たちは少しだけ距離を近づけた。


「全然ダメダメ。もっともっと」


ダメ出しの声が大きいおじさんの押しに負け、私の肩と松崎くんの腕をくっつける。


「いいねいいね、爽やかだね。恋人同士はこうでないと」


おじさんが自然に言った「恋人」という言葉。


少しドキッとしてしまった。松崎くんの顔はあまり見れなかった。
どんな表情をしているのか見るのが怖かったから。


「ハイ、撮るよー。笑って笑って」


シャッター音が聞こえて、おじさんの満足したような顔がカメラから見えた。


「ありがとうございました」


お礼を述べてカメラを受け取る。


カメラで出来上がりを確認すると、とてもいい写真になっていた。


私の表情は相変わらず作り笑いで固かったけれど、松崎くんは自然に笑っているし、なにより景色が綺麗に写っていた。