「遥」
和仁の私を呼ぶ声さえも、今だけは脅威にかんじた。
「やめてってば」
「ごめん。でも、聞いてくれ」
私は無意識に耳を塞いでいた。
何も聞きたくなかった。
彼が困ったような表情で何かを言っているのは見えた。
すると、和仁の手が伸びてきて、私の腕を掴んだ。
「頼むよ、遥…」
彼の苦しそうな顔は、私の喉を更にグッと締め付けた。
胸が、痛かった。
「私……、嫌なところなら直すから」
現実に目を向けられなくてそう言ったけれど、和仁の意思が変わらないのは分かっていた。
「そうじゃないんだ。遥は何も悪くないんだ」
彼はそれだけを繰り返していた。