「他に好きな人ができた。だから別れてくれないか」
和仁が言った言葉は、私には一瞬理解できなかった。
いや、一瞬どころか、しばらく。
「…………え………」
喉の奥がグッと押さえつけられたようになって、うまく声が出せなかった。
マグカップを持っていたら、たぶん床に落としてしまっていただろう。
「突然ごめんな。ずっと迷ってたんだけど…やっぱり、このままじゃいけないと思って」
呆気に取られている私に気づいているだろう。
それでも和仁はやめずに言葉を続けるのだった。
「遥のことが嫌いになったわけじゃないんだ。本当に。俺が悪いんだ。遥以上に好きになってしまった人がいる」
怖い。怖い。怖い。
私は話の内容よりも、とにかく続きを聞くのが怖くて、
「やめて」
と短く一言つぶやいた。
どうしよう。
自分でも分からないけれど、とても寒気がした。
風邪を引くのとは違う。
血の気が引くみたいな感じだった。