お腹いっぱいになるまで、おつまみやらご飯を食べ、お酒もたくさん飲んで、とても楽しい時間を過ごせた。
私にはそれだけで十分だった。
電車の時間も終電に迫っていたので、私たちはお店を出ることにした。
結局、二人ともだいぶお酒を飲んでしまったけれど、どうやらお互いにお酒には強いらしいことが分かった。
「今日はこんなに遅くまですみません。迷惑じゃなければ家の近くまで送らせてください」
松崎くんの申し出は、もはや断っても無駄だ。
たぶん、「一人でも大丈夫」と言っても、「夜道は危ないですから」とか心配して、結局送ってくれるのだ。
申し訳ないけれど、確かに今の時代何があるか分からないからありがたい。
お互いの家も駅ひとつぶんくらいしか離れていないし、素直に彼の言葉に甘えることにした。
人があまり乗っていない電車の中で、私たちは無言で窓の外の夜の風景を見ていた。
リズミカルにガタンゴトンと音を立てる電車が、時折、左右に少し揺れたりする。
「西山さん」
「はい」
不意に松崎くんに呼ばれて、私は窓の外から視線を電車内にもどし、彼の方に向き直った。
「次は登山でいいですか?」
彼はとても真面目な顔でそう尋ねてきた。
「うん。ついていけるか自信はないけど…。頑張ってみるよ」
「………よかった」
私の答えを聞いて、松崎くんは胸を撫で下ろすように笑顔を浮かべた。
「また会ってもらえるんですね」
「え…。あ、うん。…でも、そんな会うことなんて大それたことじゃないよ」