幻覚の土方(もしかしたら本物かもしれない)は、動かない和早の襟を掴んで揺さぶった。


「んの馬鹿野郎! ふざけんな!」

「……あの。私の幻覚だったらいいんですけど、本物だったら敵に見つかるんで声落としてください」

「あ、悪い…」

「わかればいいんですけどね。っ痛ー…」


和早は痛みに眉間を寄せた。

…全く、怪我人を揺さぶるなどどうかしている。
この場合は仕方ないが、せっかく乾きかかった傷が開いたらどうしてくれる。



「これ…俺の服か? 随分と派手にやったな」

「ええ。おかげで土方さんの首目当ての兵に幾度となくやられかけましたけどね」

「無茶苦茶だなおい…」

「あはは。これも性分なので」


無茶は重々承知だった。

こちらが「土方歳三」だと名乗って相手が信用し、土方として戦った上で死ぬことができたら、本物の「土方歳三」は生き延びられるだろう。


そう考えたのだと言えば、土方は苦虫を噛み潰したような顔をした。