《はじめまして、新しいココの住人さん。
 良かったら私に連絡を下さい。
 待ってます。必ず、待ってますから》


メッセージはそれだけで、あとは下の方に携帯電話の番号みたいなのを書いているだけだった。これは、一体どういうことだろうか。


これを書いたのはきっと、此処に住んでいた人の娘さんだろうとぼくはわかった。ぼくや母さんのことを『新しいココの住人さん』と呼ぶのは、前に此処に住んでいた人ぐらいだ。それに、文字が丸っぽく女の子が書いた印象を思わせ、端っこに猫か何かのイラストが描いあるから、この置き手紙はきっと娘さんが書いた物だろう。


しかし、彼女が何故、こんな置き手紙を置いたのかがよくわからなかった。母さんに宛てた手紙なのだろうか、それともぼく宛てなのだろうか。


もしかすると、ただのいたずらなのかもしれない。何か企みでもあるのだろうかとぼくは彼女を疑った。


でも、いくら疑ったところで何かが解決するわけでもなく、逆に、彼女に失礼な気がした。


ふぅ、とぼくは疑心暗鬼な自分の心にため息を吐いた。白いカーテンがふわりと風で揺れて、窓から差す暖かい陽射しがぼくを包み、見上げた空にはまだ、あの七色に輝く虹があった。


ぼくはポケットから携帯電話を取り出して、手紙に書いてある携帯電話の番号を打ち込んだ。彼女にはきっと、何らかの理由があるに違いない。でなければ、こんな手紙なんか置く筈がない。


それに、あの虹を眺めていると、今も彼女がぼくからの電話を待っている様な気がした。そして、ぼくも同様に、彼女に電話をしなくてはいけない様な気がした。
 
 
 
だからぼくは、携帯電話の発信ボタンを押した。