ピアノの演奏が始まる。




弾いているのはもちろん……莉玖だった。




「ラ・カンパネラ。これは、私の妻が一番愛した曲でした」



オーナーは、目を細めてワイングラスを傾ける。



「まるで……妻が戻ってきたようだ」



莉玖のピアノは心が透き通るようだった。



音色に合わせて、心の奥底にドロドロと溜まったものが洗い流されていく。




自然に……涙が出た。




「息子の演奏で泣いて下さってありがとう」


オーナーの顔を、はっと見詰める。



「私が莉玖の父親です」



背格好は違うけど、切れ長の優しそうな目元はそっくりだ。




「あなたのおかげで、彼は再び音を取り戻しました。彼の演奏が聞きたいと言ったそうですね?」



「はい……」



「妻が死んだ時、彼はピアノに触れるのを止めました。ですが、あなたの言葉で彼は再びピアノと向き合う事になりました。ありがとう。私は感謝をしています」



「そんな……」


重い話しじゃなかった。