下駄箱でローファーに履き替えて、昇降口を出た。



「暑・・・。」

まだ初夏だというのに太陽は容赦なく夏を照りつける。汗で長い髪がおでこにはりつく。それを鬱陶しそうに払いながら夏はバス停までの道のりを歩いた。

眩しい日差しに目を細めるとバス停のベンチに見慣れた人物がいることに気がついた。頭のてっぺんにボリュームのあるおだんご可愛らしく乗っている。夏はそれが誰だか気づくとそっと歩み寄って、その人の後ろに立った。

「おじょーさん。」

「!?」

急に声をかけられてよっぽど驚いたのだろう。勢い良く後ろに振り向く。いたずらっぽい笑顔を浮かべる夏だったが、一瞬にしてその笑顔が消えた。



「・・・杏里?泣いてるの?」

恐る恐る聞いた。そうじゃないことを心から願って。

杏里は夏の顔を見て安心したのか、愛らしい猫目の両目から同時に涙が溢れた。


「・・・なつっ・・・。」

「どうしたの!?」

夏は慌てて杏里の隣に座った。そしてスクールバッグからミニタオルを取りだして、杏里の濡れた頬をそっとぬぐった。

「もうあたしだめだ・・・。」

「なんで?何かあったの?」

「・・・まさが浮気してた・・・っ。」

顔を歪ませて、華奢な手のひらで自分の顔を覆う。指の間から涙が零れた。

「・・・浮気って・・・なんで・・・?」

杏里と彼氏のらぶらぶっぷりは自他共に認めるばかっぷるで、何度か夏もまさと会うことがあったが、いつもふたりは仲が良さそうに腕を組んでいた。

「まさくんって男子校だよね?バイト先ってこと?」

「ううん。違うの・・・。浮気相手は6組の青山星良。」

「青山星良ってあの?」

「うん・・・。」


青山星良というのはバトン部の部員で、異様に胸が大きい子だ。