バスを降りて駅に着くと、幸谷君が券売機で切符を買った。




今朝、ここで///

顔が赤くなるのがわかった。

あの時の感触を思い出して、頭が沸騰しそうだった。

なのに、幸谷君は、普通に私に言葉を紡ぐ。





「桜台南って、こっから190円なんや。」






「…うん。」







私には、何もかも初めてで何もかも無知で何もかも不確か…。

でも、幸谷君は私より色んなことを経験していて、大人…。





小さく深呼吸して、自分を落ちつける。





電車はいつもより時間も遅い所為か、込んでいて、嫌だと思ったのに、私を扉の傍に立たせた幸谷君が、まるで私を外界から庇うように、前に立ってくれた。

視界いっぱいに広がる学生服の黒と、鈍い金色懸った黒いボタンが私の目に焼きついた。






大好きよ…

ずっと前から知ってるみたいに、大好きだよ…





電車がカーブで揺れた時、私は無意識に幸谷君の胸に手をあてていた。






「ッごめんな…さい///」






少し離れようとした私をそのまま片手で引き寄せた幸谷君が「離れんな…」って、私の髪に顔を埋めるように呟いた声に胸が跳ねた。

身動きの取れないこの状況下、私は、幸谷君の胸に顔を埋めた状態で、思考回路がショートしてしまった。






広い胸

背中にまわされた手。




甘い匂いは、香水と幸谷君の匂いが混じってクラクラしちゃう…。




たった15分間。

いつもは、本を読んで過ごすささやかな時間が、今、色付いて私を赤く染める。