「あれ…?

自転車…は?

幸谷君は、いつも…、自転車じゃないの?

今日は…自転車は?」







ふと、頭を過った疑問が勝手に口をついた。

学校へ迎えに来てくれた幸谷君は、自転車じゃ無かったよね…。

でも、確か朝、自転車で送ってくれるとか言ってた気がする…。






「あ”ー…。

チャリは、郁…トモダチに貸した。」






郁…?

郁ちゃん…。

ああ、莉子ちゃんの話してくれた幼馴染の人…かな?

幸谷君の親友…だっけ。







「そうなんだ…」






少しだけ嬉しくなった。

手を繋いで歩けてる今に嬉しくなった。

自転車だったら、手なんて繋げないモン…。






緩む顔を隠す様に道路に視線を向けた。





…あれ…?このバス停、いつものバス停じゃない…。

いつものバス停を二つ通り過ぎていた。

幸谷君と一緒に居る時間が私に色んな余裕を失わすから。






でも、やっぱり嬉しい気持ちが込み上げて来る。





少しでも長い時間、傍に居たいと思う自分を誤魔化せないから。





幸谷君に引き寄せられた心は、もう、後戻りできない位、深く強い力で私の中に引き込まれてしまっていた。






誰も傷ついて欲しくないなんて、思う私の気持ちとは裏腹に、幸谷君の傍に居れる今の自分の幸せの方が大きくて、人を傷つけて自分が赦されるはずのない単純な原理を思えないほど、私の恋は走り出していた。


引力…


今日知ったばかりの恋。

今日まで知る術も無かった気持ち。


幸谷君によってもたらされたあらゆる気持ち。

私の初めての恋は、少し強引に始まった恋。