「ごめんな…。
ビビったやろ?」
目の前の男の子の声に、素面に戻った私は、視線を外して、落したままだった鞄を掴んだ。
次の電車が着いたのか、改札口に人が溢れ始めた。
「ちょっと、こっち…」
私の腕を掴んだその男の子が、券売機の傍の空いたスペースに私を連れてきた。
「さっき、大丈夫やったか?」
「え…?」
「オッサンとぶつかっとったやん?」
「あ、うん。
大丈夫だよ…」
沈黙。
それでも、掴まれたままの腕は熱くて、顔が火照る。
「俺、幸谷雅斗。
二工の二年…やねんけど…」
幸谷君?
簡単な自己紹介も私の中に入って来ない。
それでも、低く甘い声に、俯いたままだった私は少しだけ視線を上げた。
見えた喉仏と、顎のラインに、ドキッとした。
「春から、高杉さん…のこと、見てて…。
好きやねんけど…付き合うてくれへんかな?」
好き?
あたしを?
付き合う…?
あたしと?
「あたし、あなたのこと、知らないから…」
「これから、知ってくれたらええやん?
なあ、俺の彼女になってよ。」