離した手が寂しい。
その離した手は、今、雅斗くんの前髪を揺らしてる。
摘まんでは避けて、また摘まむ。
その繰り返しをした雅斗くんが私に視線を向けた。
「汚いけど、どうぞ?」
腕を少し前に伸ばした雅斗くんが階段を上るように私を促した。
カンカンカンカン…
階段を上る足音。
雅斗くんと私の足音が不規則にその音を醸す。
「ちょっと、待ってな?」
ポケットから鍵を出して、ガチャっとドアを開いた雅斗君が微かに微笑んだ。
「どうぞ、入って?」
一歩足を踏み入れる。
「お邪魔します…」
雅斗くんの甘い香水の匂いが私をキュッと締めつけて、まるで不整脈のように心臓が躍った。
目に入る全部が…
雅斗くんだから。