「おばちゃん、早う行かな開店に間に合わへんで?」





低い声。

幸谷君が私には向けたことの無いその声は、淡々としていて冷たい。

そんな幸谷君の声に反応してこの人がポケットをガサゴソと漁り始めた。

そしてピンク色の携帯を取り出して「ほんまや、怒られるわ。」と、もう、私たちから意識は違う方に向いたみたいで、「ほならな、気ぃつけて。」と、軽く言葉を残して女の人は立ち去った。






「ごめんな。

あのおばちゃん、郁、知ってるやろ?俺のダチの。

アイツの母ちゃんやねん。

…ケバイんにびっくりしたやろ?」





カートに手を掛けた幸谷君が少し戸惑いながら私を見た。

揺らぐ瞳。

また、一つ私に小さな影を落としたのは事実。

でも、







「ううん。
そんなことないよ?

ハンバーグ、チーズも入れようかな?

雅斗くん…、チーズ好き?」






意を決して口にした名前。






どうか、

どうか、






私を幸谷君の…

雅斗くんの一番近くに私を置いてください。







「俺、死んでまうわ。

お前、奇襲攻撃ぶちかますんたいがいにしろや。」






カートの傍にしゃがんで頭を抱えてしまった幸谷君の表情はわかんない。

けど…