「あれ?

雅斗やんか。」







背後から声が聞こえた。

その声に瞬間に反応した幸谷君が立ち止まるから、不思議に思って横から幸谷君の顔を見上げると、眉間に深く皺が寄ったのがわかった。

そして、大きく溜息を吐いた幸谷君が投げやりに言葉を繋いだ。







「なんや…。


おばちゃん。」







おばちゃん?







声の方へ視線を向けると、カートにいっぱい食材を詰め込んだお母さんくらいの女の人が目に入った。

派手な身なりは、私の周りには居ないタイプの女の人。

少し生活に疲れた感じに見えるけど、キツイお化粧の下は、凄く綺麗な気がした。

でも、掠れたハスキーな声が私を威圧するには充分で、私は幸谷君の背中に隠れるように一歩下がった。

そんな私を庇うように幸谷君は私の一歩前に出て、後ろ手に手を差し出してくれた。

その手に自分の手を重ねると、力強くギュッと握ってくれた。






「イチャこいてる高校生おんなぁ思ったら、あんたかいな。」






「…煩ぇ…」





心底嫌そうな声を出した幸谷君に、そんなのどこ吹く風のこの人は豪快に笑った。






「はあーん。

この子が、噂の姫?」






ニヤニヤと私を上から下へと視線を這わせたその人が「こんにちは、雅斗の彼女やんな?」と、私に言葉を向けた。






「あ、こんにちは…」






慌ててお辞儀した私に「育ち良さそうな子やな。雅斗なんかに勿体ないね。その制服、桜坂やろ?可愛いし、綺麗し、頭もええんや、あんた。住む世界違うな。」と、目を細めたこの人の言葉の真意がつかめず不安が襲ってきた。






勿体ないって…何?

住む世界が違うって…何?