自分よりも少しだけ体温の低いサナの手を握ると、ライはゆっくりと自分の手と重ねた。
重ねた手の平から、お互いの異なる温度がじわりと染み込んでいく様だった。その部分だけで共有する体温と肌の感触は、何とも言えない気恥ずかしさを覚えさせる。
二人の間で合わさった手をぼんやりと見詰めるサナは、不思議そうにライに視線を移す。
「…ほら、全然違うけど……同じ形だろう?…同じ形の、同じ人の手なんだ。………昼間に見たあの死体も…僕等と同じなんだよ。…生きているとか死んでいるとか…多分サナにはよく分からないと思うけど…」
生き死にまでは理解出来ないかもしれないが、サナには知っていて欲しかった。
死んだ人間は動かない。やがて土に還り、跡形もなく消えてしまう。
人形同然の無機質な器と化した屍は、いくら醜くてもそれは自分達と同じものなのだ。
世界には、色んな人間がいる。
肌や髪の色が異なる人、手足が無い人、喋れない人、盲目の人…色んな人がいて、色んな個性を持っていて、色んな…思いを抱いていて。
自分との違いをみつけると、人は好奇の目を向け、そして畏怖の念を抱き、それは次第に差別という無意味な隔たりを生み出す。
違うことがおかしいのだと、人は悲しいことを言う。
元は、皆一緒なのに。壁を作ってしまう人間は、なんて愚かで浅はかで、可哀相なのだろうか………遠い昔、今でも鮮明に焼き付いている記憶の中の女性が、そう呟いていたのをライは覚えている。
「………皆違う。違うけれど、同じなんだよサナ。………記憶が無いからって、僕は君を少しも変だとは思わない。サナは、サナだ。………僕も君も、きっと全然違う人生を歩んできたのかもしれないけれど………ほら、こうやって手を重ねてみれば…僕等は、同じなんだよ」
「………おー…」
再び首を傾げるサナだったが、重ねた手の平を見詰める表情に、微かな笑みを浮かべたのをライは見た。
手を合わせる事の何に面白みを抱いたのか知らないが、どうやらお気に召したらしい。