やや遠慮がちに彼女を覗き込んでみるが、サナの視線はやはり手中のボタンではなく、ライの手に向けられているようだった。
「…あー…あーう…」
「…な…何?………手が、どうかした?」
サナは仕切りにライの拳をパシパシと叩いてくる。不思議に思いながら何となく拳を解いてみれば、ライの手の平に自分の手を重ね、何故かじっと交互に見比べ始めた。
軽く重なった双方の手。
ライの手は焼けた赤褐色で、節くれ立った長い指を持っている。
その上にやんわりと重ねられたサナの手は、透き通る様な色白。爪先まですらりとした指で、柔らかさを持つ女性らしい小柄な手だ。
肌の色も、大きさもまるで違うが、どちらも同じ手だ。
急にこんな行動に出るだなんて、一体どうしたのだろうか…と、サナにされるがままにいたライだったが、ふと昼間の出来事が脳裏を過ぎった。
そういえば、思い当たる節がある。
(………もしかして…あの時見た死体………の事かな…?)
昼間に路地裏の奥で見つけた死体だが、ライが声を掛けるまでサナは何故かずっとグロテスクな屍を見つめていた。
腐敗し、原型をどうにか止めていた肉塊の手…肉が抉れて骨がむき出しだった死体の手と自分の手を、静かに見比べては首を傾げていたのだ。
サナが何を考えているのかなど、想像もつかない。記憶をすっかり無くした言わば赤子同然の空っぽの頭は、見るもの全てを知らず、そして一般人とは違う斜め上の疑問を始終抱いているのかもしれない。
今もサナは、死体の手と見比べいた様に、ライと自分の手をじっと凝視して見比べている。
あちこち違うけれど、何処か似通っている。
その矛盾が、サナに首を傾げさせているのだろうか。
「………サナ…僕の手は…君と手と比べて…色も違うし、指の長さも、爪の形も、肌の固さも違うだろう?」
「うー…」
パチパチと瞬きを繰り返すサナに、ライは「嫌だったら嫌って言うんだよ!言うんだよ!」と必死に念押しと断りをいれ、サナの手をそっと取った。