天井でユラユラと揺れるランプの明かりを背景に、それはキラリと淡い緑色の反射光でライの瞳を照らした。
不意に入り込んできた小さな閃光に、思わず瞼を閉じる。



ライが明かりに翳して見上げている小さなそれは、昼間に死体の手中から見つけたボタンだった。
拾った時は場所が場所なだけに薄暗くてよく見えなかったが…こうやって明かりの下で観察すると、それが予想以上に美しく、今までライが見てきたボタンなど比べものにならない代物であることが分かった。

葉っぱに似た、何かの紋章が刻まれた部分は特殊な加工がされているようで、ランプの明かりを浴びると薄いエメラルドの光沢を放つ。

たかがこんなに小さなボタン一つに、繊細な職人の手が掛かっているのだ。



「………綺麗だなぁ……多分……売ったら高いんだろうな…これ」


細かな装飾の美しさに見とれつつも、幾らだろうとついつい換算してしまうのは貧乏性の証拠なのだろうか…と、ライは苦笑を浮かべた。

単品のボタンが幾らで売買されているのか知らないが、これは素人目でも良質な品であると分かる。明らかに高価なものだ。そこらの一般人が寝間着のボタンに使うとは考えにくい。

(…と、なるとやっぱり……あの情報屋を殺したのは………貴族辺りの富裕層の人間…?)

近頃連続して発見される、額に風穴を開けた奇妙な死体……一連の殺人は、貴族などの者である…と、簡単に情報を繋げてしまえば出る答えだが、どうも釈然としない答えだ。




富裕層の人間が…自分達三槍などの邪魔な人間を殺して回っている?

では、三槍を嗅ぎ回っているという噂の密偵も同一人物なのか?

…しかし貴族がわざわざ手を汚すような真似をするだろうか?

バリアンに雇われているから?

でもそれなら、温室育ちの貴族よりも兵士を密偵にして忍び込ませた方がいいに決まっている。どちらが役に立つかなど明白だ。

じゃあ…このボタンは何だ?


もしかして関係無い…。









「………分からない。………頭が痛くなってきた」