やっと口を開いたかと思えば、冷めた一言で虫の様に叩き落とされたが、アレクセイの貼り付けた笑みは崩れない。
気味が悪い、と失礼で素直な感想をジンは抱いた。
「………総団長の身である故に忙しいとは思うが…お前も、少し調べてもらいたい」
「…貴様とダリル執務管長が洗いざらい城内を調べるのならば、猫の手以前に手助けなど要らないに等しいのでは?」
アレクセイとダリルが調べるのならば、城内にある全ての古書を読破するのにそう時間は掛からないだろう。間違いなく。
最初から万全な体勢の調査役に、自分がそこに加わる必要性を全く感じないのだが。
苛立ちを露わに更に顔をしかめるジンに、アレクセイはそうじゃない…と、首を左右に振った。
「お前に頼むのだから、お前にしか出来ない事だ。大昔の古書よりも、赤の他人から聞く虫食いだらけの伝説よりも………その分野において、より確かな知識を持つ情報源があるではないか。………………里に文を出せ、ジン…長か、もしくは巫女が何か知っているやもしれん」
笑顔でそう淡々と述べるアレクセイを、ジンは目を丸くしてまじまじと凝視してきた。
信じられないとでも言うかの様に、呆然と瞬きを数回繰り返す。
「………よくも…そんな事が言えるな……糞ジジイ…この、狸め…!………里を捨てた貴様が、里を頼るとはどういう了見だ…!」
「…だからこそ、お前に頼んでいるのだ。…私では、話も聞いてもらえないだろうからな。………恥ずべき事を言っているのは自分でも分かっている。…なぁに、陛下のためだと言えば里も喜んで力を貸すだろう。それに…そのために………あの我等の里があるのではなかったのか?」
「………我等などと言うな。あれはもう、貴様の里ではない」
苦々しい表情でそう吐き捨てるジンに、アレクセイは「ああ、そうだったな」と楽観的に手を叩いて頷いた。
まだ了承した訳でもないのに、任せたつもりでいるらしいアレクセイはさっさと顔を背けると、再度円卓の上の報告書に視線を落とした。