「―――魔法陣。それも、そこらの魔術とは比べようの無い程に…強大な………………まぁ、これも単なる憶測だが」






闇色の帳は、完全に茜の輝きを地平線の向こうにねじ伏せていた。
昼間には無かった少しばかりの冷気が、老いた肌に微かな寒気を覚えさせる。

見渡す限りの視界がとっぷりと暗くなってしまっても、何処か鋭い二人の瞳は円卓の上に横たわる羊皮紙…そこに描かれた歪な円を睨みつけていた。

この円は何を意味するのか。


憶測の答えを呟いたアレクセイに対し、ジンはしかめっ面のまま無言だった。
何を言っても反論する彼から何も返ってこないということは、どうやらジンの憶測も同じだったらしい。
それなのに何故不満そうな表情なのかというと、それは恐らく嫌いなアレクセイと同じ考えだという事実が非常に気に食わないからだろう。

十九にもなって、変なところで子供なのだなとアレクセイは密かに笑みを零す。






「感知された魔術痕は解析不明だが…濃い黒の魔術であるとダリルから報告を受けている。仮にこれが魔法陣であるとすれば……バリアンは近い内に何かとんでもない事を起こすつもりの様だ。ただ、この魔法陣がどういったものなのか分からない限り、奴らの目的も分からない。…少なくとも……砂漠に恵みの雨を降らせる様な、平和的なものではない事は確かだ」

そこまで言うと、険しい表情から一転。アレクセイは我が孫に振り返り、疲れ顔で笑みを浮かべてきた。

その笑顔に向かって、思わず右ストレートを食らわせようと動いた右手をとっさに左手で押さえ込んだ自分の理性に、ジンは内心で称賛した。



「………ものは試しだ、ジン。私はしばらくの間、城内の古書を読み漁る読書週間を設けようと思う。…だが、こういった分野に特化した書物のほとんどは紛失してしまっている。城内の古書のみでは限度があるやもしれない………そこでだ、ジン」

「気安く呼ぶな」