勿論、泣きっ面に蜂の如き追い討ちを掛けたわけではない無実の羊皮紙の束は、未だ悶絶するロキの肩口を通り越し……俯いている彼の目下へと不時着した。
羊皮紙の海の上に更に散開する羊皮紙。
痛む手首を押さえながらやるせなさに溜め息を吐いていたロキの目は、落ちてきた羊皮紙の紙面を無意識で映す。
何とはなしにぼんやりと見つめていた視界を占める黄ばんだ羊皮紙を………数秒の間を置いて、ロキはゆっくりと手に取った。
目線の高さで掲げた羊皮紙と共に徐々にもたげていくロキの顔からは、疲労は既に消え去っていた。
代わりにあるのは、仏頂面の相棒がよく浮かべる様な、怪訝な表情だった。
「………何だ…これ…」
手元の蝋燭の明かりを向ければ、明確に浮かび上がるそれにロキの眉間のしわは更に深くなる。
四角い紙面に見えるのは……点。
羽ペンの先を軽く押し付けたかの様な点が…数え切れない程たくさん描かれているではないか。
しかもそれは大きな円を描いている。
羊皮紙には、真ん中は空洞の丸が一つ。蟻の群衆の如き点描で浮かび上がる円は、ただの落書きにも見えるし、上に何かを置いた跡の染みにも見えなくはない。
一見何の変哲も無さそうなそれは、すぐにでもロキの興味から外れてもおかしくないのだが…パッと返した裏面に小さく『魔術痕・箇所』と見過ごしてはならない走り書きを見付けてしまった。
問題はそればかりではなく、それが中々分厚い束になっており、次に捲った羊皮紙にびっしりと…訳の分からない記号の群れが並んでいたのだ。
(………これは…)
二頁目以降の羊皮紙には、理解しがたい記号が紙面を真っ黒に塗り潰す勢いで羅列していた。
その次を捲っても、その次も、その次も…。
頭の片隅で見覚えのあるそれは、決して落書きなどではない。虫の這った跡でもない。
「………古代文字か…?」
ああ、思っていたよりもややこしい事…七面倒臭い事になりそうではないか、とロキは思わず溜め息を漏らす。