その国にしか生息しない野獣や魔獣の類もあらかた調査しているらしい。
三年前のデイファレトでの王政復古についても、その内部情報に関する調査記録なんぞもあった。あの雪国の新しい王は、それまでの歴代のデイファレト王の血筋とは異なる、生まれも身分も全く違う人間が玉座についた…だとか何とか、そんな馬鹿なとにわかには信じがたい風の噂を当時耳にしたが……残念ながら、走り書きの調査記録に詳細は記載されていなかった。

ロキは現在の他国の内情をあまり知らない。出来れば今後のためにもここである程度知識を増やしておきたいところだが…さすがは将来ゴミとなる紙達だ。

…肝心なところは何も書かれていない。



(…本当に泥棒をするだけの価値あるお宝があるのか…?……レヴィさんよ…)

紙屑を投げ捨てながら段々と相棒に対する不信感を抱くロキだが、あのレヴィの事だ…「誰が絶対にあるとか言った?」と、あの無表情に冷笑を浮かべて言いそうだ。

想像しただけで凄くムカつく。


「…古いのも新しいのもごちゃ混ぜだな………“六年戦争”時の調査記録?……戦術の“闇溶け”…については、未解明…。…フェンネル国家騎士団の軍事編成は………………インクをぶちまけてやがる…ただの書き損じかよ…」

下半分が真っ黒に染まったそれを衝動的にグシャリと丸め、ロキは勢いを付けて背後に投げ捨てた…のだが、丸められた紙屑はロキの思惑通り遠くへ飛来する事はなかった。

後ろに振り上げた手が、傍らの机の縁にガツンと衝突をしたからだ。


ゴッ…という骨の髄まで響く様な鈍い音と共に、ロキは反射的に唇を噛み締めて痛みに耐えながら前のめりにうずくまった。
手首の関節辺りへの地味な衝撃は、地味に痛かったらしい。ここが敵地でなければ大声で痛いだの何だのと叫んでいたことだろう。
無言で肩を震わせながら悶絶するロキだったが、その頭上から追い討ちを掛けるかの様に羊皮紙の束が落ちてきた。


たった今腕をぶつけた机の上にあったものだろう。振動で滑り落ちてきたらしい。