二重、三重、四重と、常識的に考えて無傷では突破出来ないであろうそんな固い警備を、あろうことかロキは苦も無く潜り抜けてしまっていた。

囮も何も使わず、身一つで…である。
ちなみに抜け道などは使っていない。きちんと首都の門から侵入していた。そのまま人混みに紛れ、小道から小道へと道なりに進み、とうとう城門前にある目的の役所前にまで辿り着いていた。

その間、ロキは誰にも発見されていない。
何十人にもの兵士達の側を通り越してきたが、彼等の血走った警戒心はロキの姿どころか、気配さえも捉えることが出来なかったのだ。


自分で言うのもなんだが、城内の潜入を除く他の隠密行動に関しては三槍の人間の中でも一番であると思っている。
……まぁ、その時の時間帯によるのだが。



(…それじゃ、お邪魔します)

入り口に佇む何も知らない警備兵の背中にヒラヒラと手を振り、ロキは役所内に足を踏み入れた。 天井からぶら下がる蝋燭の柔らかな明かりを避けながら、建て付けの悪い階段を音も無く上がって行く。



外は警備網が張り巡らされている割に、役所内は人気が無く真っ暗だった。
壁に空いた窓代わりの風穴からは、地上の松明の明かりが微かに差し込んでおり、案外狭い室内はぼんやりとした光が籠もっていた。




この役所は、走り書き、廃棄処分予定、作成中断となった資料を一時保管する言わば将来ゴミとなる予定の情報の溜まり場だ。

その内捨てるものであるせいか、資料室である二階は足の踏み場も無いほどに羊皮紙が散乱していた。

整理整頓が得意な執務官と違って一端の兵士が管理しているからと言っても、この散らかりようは無いだろう…と紙の海を前にして、ロキは苦笑いを浮かべる。


「………これも侵入者を苛立たせるための防犯だとすれば、バリアンはある意味一枚上手だな…」

深い溜め息を吐き、ロキはその場で腰を下ろす。目深に被っていたフードを外し、さあやるぞ…と袖を捲って資料漁りに取り掛かることにした。