「………それがどうした」

興味も無さそうに淡白な返事を天井から落としてくるジンに、アレクセイは後ろ手から取り出した羊皮紙の束を手元で広げて見せた。

それは先程目を通したと言っていた報告書の一部で、アレクセイはレンズだけの老眼鏡を片目で通して見下ろしながら再度口を開く。


「…感知された箇所を示したバリアンの地図だが………印を線で繋いでみれば…当初は、それがまるで半円を描いている様に見えていたな?…しかしながら、現在は……こうだ」

そう言って傍らの円卓に軽く放り投げた羊皮紙には、広大なバリアンの砂漠を細かく描いた地図が広がっており…。

そして、魔力が感知された場所を記した黒インクの跡は………砂漠全体を囲むように、大きな一つの円を描いていた。

偶然にしては出来過ぎていて、不気味だ。


「……この円を描いている魔力痕は、明らかに意味がある。だがしかし結局これが何なのかが分からない………ダリルも陛下に何と報告すべきか渋っていた様だ。この報告書によれば、軍議に参加していたお前からは意見が出なかったようだが…………………なぁ、ジンよ……一つ訊くが………これが何なのか、少なからずお前は気付いているのではないか?」


…私と、同じ様に。
そう小さく呟いて苦笑を浮かべたアレクセイを、上下逆さまになったままのジンの鋭い隻眼が射殺さんばかりに睨んだ。

直ぐに隻眼は逸らされたが、顔を背けたジンはポツリと口を開いた。


「………憶測でものを言いたくないだけだ」

「なるほど。だがその憶測が二つになれば……憶測も可能性に近づくやもしれん………………これ以上、嫌いな私に突っ込まれるのは腹立たしいかもしれないが………お前の答えを聞きたい」



そう言って報告書から目線を上げてジンを見上げたアレクセイからは、いつもの孫にたじたじな様子の困った笑みは消えていた。

身内と言うよりも、一兵士として意見を求めてくる態度の変わりように、ジンは舌打ちをして顔をしかめる。