暗がりでも刃の様に浮かび上がる灰色の髪は、今は白く染まってしまっているが若かりし頃の自分のそれと同じで、少々目付きの悪さが際立つ顔つきを見る度に、やはり自分の孫なのだなと互いの血の繋がりを再確認してしまう。
騎士団総団長として入城した後、アレクセイはつい最近まで一度も里帰りをしていなかった。残してきた妻にはいつの間にか子供が生まれ、そしていつの間にかジンという孫が生まれていたのだが……約半世紀の歳月もの間、古里と家族をほったらかしにしていたせいか、妻子以外からは里を捨てて出て行った赤の他人扱いされており、特にこの孫のジンからは忌み嫌われている。
ジンを里から連れてくるために久方ぶりの帰郷を果たした際には、危うく実の孫の手によって殺されかけた苦い思い出もある。
ジンを自分と同じ様に入城させてから早四年あまりが経つ今、当初の頃よりも自分に向けてくる殺気の鋭さは若干丸みを帯びてきたものの…毛嫌いされていることには変わらない。
他人に対しては丁寧な敬語で紳士的な振る舞いをするくせに、嫌いなアレクセイに対しては人が変わった様に口調も素振りも乱暴になるから困ったものだ。もう、慣れたけれど。
「……では、そのままで結構だ。素直にここを去るのがお互いのためであることは分かっているが………少しお前に話がある。なに、世間話などと冗談は言わないさ」
「…手短に済ませろ」
普段ならば喧嘩という名の半殺し合いを避けるために互いに極力会うのを避けるのだが、アレクセイ自らがこちらに出向いてきたのだ。内心、本当に嫌で嫌で少しばかり腹が煮えくり返りそうだったが、ジンは耳を貸すことにした。
腰元のクナイに無意識に伸びそうになっていた右手を、反対の手で理性と共に押さえる。
「…昼間の軍議の報告書だが、先程目を通させてもらった。……主な議題はやはり、バリアン国土から感知されている魔力の事だったが………相変わらずそれが何なのか、何故感知されるのかが分からずじまいだ、とダリルからも聞いている」