五年前に終止符を打ったかの名高い“六年戦争”の最中では、仕えていた貴族の嫡男である当時の若き総団長を支えるべく、一時騎士団に戻ったこともある。
国家再興を迎えた戦後の今、再び執事として日々を過ごしているが……元々騎士団総団長だった故に軍議に呼ばれては何かと意見を求められるし、女王陛下の嫡男であるルウナの世話役も行っているため、一概に単なる執事とは言えない。

当のアレクセイも、まさか二度も子育てをするとは予想していなかった…と今になって思う。
一度目も今の二度目も、同じオッドアイの少年のお世話をしているのだ。
時折、一度目の手塩にかけて育てた前の主人とルウナが重なって見え、涙ぐんでしまいそうになると、私も老けたものだな…と緩んだ涙腺をこするものだ。

デイファレトの王政復古という大仕事も三年ほど前に無事に終えた訳だが、今回の三国平和協定というまたもや大仕事が控えている。…年々、やってくる問題の規模が大きくなってきている気がする。

老いた足腰が悲鳴を上げているが、まだまだ隠居は出来ない様だ。否、するつもりはない。
女王陛下の望む本当の意味での平和を築くまでは、粉にしたこの身を跡形も無く使い切ると決めている。




今日も日々の執事の仕事とルウナの遊び相手を勤め、腕を回して凝り固まった肩を解しながら軍議室にやってきた。
別に暇潰しや散歩で訪れた訳ではない。……たった今苦笑混じりに呼んだ、ジンに会うためである。



「失せろ、ジジイ」

彼に声を掛けるや否や、あからさまに不快感を醸し出す辛辣な声が返ってきた。
乱暴な物言いだが、返事をしてくれるだけでもまだいい方だ。なにせアレクセイが彼を呼べば、そのほとんどが言葉の代わりに凶悪な鉄拳やクナイといった飛び道具がふってくるのだから。


ジンの冷たい言葉に内心ちょっぴり傷付きながらも困り顔を天井にむければ、そこには大きなシャンデリア……に、腕を組んだ状態で逆さまでぶら下がるジンの姿があった。