均一の間隔で並ぶ渡り廊下の窓に目を向ければ、ガラス越しに見える外の世界は暗い茜色を滲ませ、夜の帳を下ろそうとしていた。
美しいステンドグラスの輝きも、直に月明かりを帯びた神秘的な光を放つことだろう。
人気の無い廊下。
薄暗がりが籠もるその先へと独り歩を進めていれば、やがてポツンと孤立する大きな扉が見えてきた。
ひんやりと冷たい取っ手を握り締め、ゆっくりと扉を押し開いてそのまま室内へと踏み入る。
大きな円卓とたくさんの椅子だけが面積を占める部屋は、人っ子一人の影も見当たらない。
部屋の至る所にある蝋燭は随分前に吹き消されており、部屋は薄暗かった。
…無人なのは当たり前だ。今日の軍議は昼間に終わったのだから。
何も置かれていない綺麗な円卓に歩み寄り、その縁に寄りかかって腕を組んだ。
傍らの窓から差し込んでくる、夜に喰われる夕焼けの儚げな成れの果てを眺めながら……溜め息混じりに、呟いた。
「……そんな所にぶら下がっていないで、そろそろ地に足を付けたらどうだ……ジン」
そう言って肩を竦めて見せると、白髪の老人…アレクセイは苦笑を浮かべた。
薄暗がりの茜色を浴びたその姿は、一言で言い表せば、背丈の高いスラリとした上品な老紳士だ。歳は既に七十を越えている。
肌に刻まれた深いしわや真っ白に染まった髪が彼の歳を物語っているが、その足取りや流暢な口調、身振り素振りからは老いを感じない。
アレクセイ=リドムはフェンネルの王族に仕える現役の執事だが……彼の出身は暗殺術や使獣術の戦士を生むとある部族の里で、当然ながら彼は生まれながらに生粋の戦士である。老いた今もその身体には殺しの術が染み渡っており、老人とは思えない俊敏な動きを見せる。
成人したての若い頃は、里の長から一転……王族に仕え、人望ある国家騎士団総団長として初老まで身を粉にして働いた。
騎士団を引退した後は、親交の深かった貴族の屋敷で執事として落ち着ついた。