「………何だろうこれ。………ボタン…?」
指の爪程しかない小さなそれは、細部まで装飾が行き届いたボタンだった。
無理矢理引きちぎった様なそれ。襲われて揉み合いにでもなった時に思わず掴み取ったのだろうか。…だとすれば、これは犯人の唯一の手掛かりになるかもしれない。
………憶測だが。
「………凄く綺麗だな。……表面のこの模様は何だろう………紋章か何かかな?」
目線の高さにまで掲げ、天井から漏れ出る明かりに当てて細部まで観察する。
白いボタンの表面には、紋章の様な模様が彫ってあった。
綺麗な緑色で、揺らぐ葉っぱの様な…独特な模様。何処ぞの貴族の家紋だろうか。
それが何なのか、ライには分からない。博識な者に訊かなければ。
(………この事も、オルディオ達に報告しないと…)
光を浴びずとも輝いているボタンを懐にしまい、壁に刺さったままだった自分のダガーを抜きにかかった。
ライが死体やボタンの観察を続けてた中、その傍らでサナは腐りゆく肉塊をぼんやりと凝視していた。
そして何度も、首を傾げる。
目下のそれは、とても真っ赤で黒くて歪だけれど。
投げ出された手足や丸い頭の形は、何度見ても自分と同じ様な形だった。
何度見比べても。
自分の真っ白な肌の手と、赤褐色の手。
色や大きさは違うけれど、よく似ている。
同じ五本の指。同じ爪の数。同じ。
それなのに、何故これは動かないのだろうか。
同じ形なのに、どうして動かないのだろう。
こんなに真っ赤だから?
変な臭いがするから?
こんなに冷たいから?
「………?」
サナは、再び首を傾げる。
死体の抉れた手の平をしばし眺めた後、自分の綺麗な手の平に視線を移し、意味も無く柔らかな皮膚を摘んでみた。
じんわりとした痛みが広がる。
もっと強く引っ張ってみたが。
摘んだ皮膚は、死体の様に抉れることはなかった。