「………」
ロキとリディアが奥で何を話していたのかは分からないが…とりあえず、良い話ではなかったことは確かな様だ。
足早にこちらに戻ってきたリディアは、無言で俯いたまま…オルディオのいる奥の方へと姿を消した。
彼女はとても無口で何か用事が無い限り話し掛けてこないが…その時の彼女の無言から、ただならぬオーラが漂っていた。
…何かあったのだろう。何となく、予想はつくが。
「………そろそろ俺も帰らせてもらう」
どこか暗いリディアの背中を見送っていると、不意に聞こえてきたレヴィの呟きに、ライは視線を元に戻した。見ればレヴィは既にその場で立ち上がり、手にしたマントを羽織っている。
「…ロキが戻ってくるのは三日後だ。俺も三日後…また顔を出す。………ライ、お前はその間も仕事に専念しろ」
「……はい」
それだけ言うと、レヴィは背を向けて薄暗がりの中に消えて行った。次第に遠ざかっていく彼の単調な足音が、地下に響き渡る。やがてそれさえも聞こえなくなると……ライはここぞとばかりに大きな息を吐いた。
ピンと伸ばしていた背筋を一気に緩め、力無くうな垂れる。
「…アウ―?」
人気が無くなるや否や、急に脱力してしまったライの様子を不思議に思ったのか。すぐ後ろでぼんやりとティーとじゃれあっていたサナが、明らかに何も考えていない呑気な顔でライを覗きこんできた。
少し垂れ気味の円らな瞳が、パチパチと何度も瞬きを繰り返す。
心配してくれているのか、はたまた先程取り上げた櫛を未だに気にしているのかは不明だが、あらゆる角度からこちらを覗きこもうとゆらゆら揺れるサナに、ライは俯いていた頭をゆっくりともたげた。
「…何でもないよ。ただ何て言うか…………やっと一息吐けるっていうか…」
「…ノー?」
苦笑を浮かべるライに、サナは何度も小首を傾げた。子猫と同じ素振りを見せる彼女を小さく笑いながら、ライは溜息混じりに言葉を続ける。
「………ちょっとだけ、苦手なんだ……白槍のレヴィっていう…あの人が。…正直な話、少し恐いとも思っている。………黒槍も…あの人の事も、ある意味苦手なのかもしれない…僕は…」