陽気に笑うロキだったが、リディアの反応は変わらず暗いままだ。このまま去るのも後味が悪いだけだろう。
どうしたものか…と頭を掻いていると、俯いていたリディアが急に顔を上げた。表に晒された彼女の表情には、相変わらず不安の一言が浮かんでいたが、こちらを見上げてくる綺麗な瞳はとても力強かった。
「………無事…祈ってる、から…」
彼女からすれば、それは悩みに悩んだ上の精一杯のエールだったのだろう。
ぼそりと呟かれた短い言葉に、ロキは笑みを綻ばせた。
「おう!占いが得意なお前の祈りなら、まず絶対成功だな。お前は人一倍寂しがり屋だからな…大丈夫、必ず帰ってきてやるよ」
言い終えると同時に、リディアの頭に大きな手が乗った。少し乱暴に髪を撫でるロキの手の感触に、リディアの小さな胸の鼓動は高鳴る。
…顔は、赤くなっていないだろうか。変な表情を浮かべていないだろうか。
カアッ…と、顔に熱が灯っていくのを感じながら、リディアは大人しく撫でられ続けた。
ロキに…撫でられた。触れられた。
こんな事くらいで動揺してしまう自分が、何だか恥ずかしい。
でも………少しだけ、嬉しい。
もっと、触って、くれないかな。
もっと、あたしの、名前、呼んで…くれないかな。
ぽかぽかとした優しい熱が、胸中に広がっていく。この時間がもっと続けばいいのに。
…なんて、自分はこんなにも単純なんだろう。
それまで抱いていた不安感がすうっと消えていくのを感じる。
瞼を閉じてロキの指先が髪を梳いていく感覚を噛み締めていると…。
次に聞こえてきた大好きなロキの声が、何とも言えない感情を伴ってリディアを現実に引き戻した。
「………妹がまだ生きてたら…ちょうどお前くらいの歳なんだけどな…」
………妹。
その短い言葉が、温かだった胸の内に深く食い込むのが分かった。
痛みは、無い。