首都の小高い丘の上に聳え立つ敵の根城は、そう易々と侵入者を歓迎してはくれない。
丘は巨大な一枚岩で、城はその上に建っている。城下から城の出入り口までは非常に傾斜が急になっており、凹凸だらけの表面は一見登れる様に思えるのだが…それは安易な考えである。

丘のザラザラとした表面は非常に鋭利で、まるで一面ガラスの破片の様になっている。素手で触れば意図も容易く皮膚は切れてしまう。あの固いバジリスクの岩肌さえ裂けてしまうのだから、丘を登る事は出来ないのだ。

例えその障害を乗り越えたとしても、城は強力な魔力によって分厚い結界を張られている。
故に、城に行くには城下の巨大な城門から続く一本道のみ。
とてもじゃないが、侵入は不可能なのだ。


「…城門の傍に、役所がある。軍部は何等かの調査をすると、一旦そこで集めて整理してから上の大臣共に報告するんだ。……汚い記録書をそのまま出すわけにはいかないからな。要点だけをまとめて、わざわざ清書するのさ。………その調査記録が、まだ残っているかもしれない」

やけに軍部について詳しいレヴィの話をじっと聞いていると、ロキは明らかに面倒臭そうに溜め息を吐いてきた。
真剣なレヴィの話を前に平然と欠伸が出来るのは、彼くらいのものだろう。


「役所に忍んで物色…って事か。………いいぜ、白槍さんのお願いとあらば、この黒槍、とりあえず頑張りまーす…」

「………ロキ…」

まるで危機感も緊張感の欠片も無いふざけた生返事をするロキに、リディアは不安げな表情を浮かべる。
忍び込むのは城ではないにしろ、首都の、しかも敵の拠点の目の前である。危険であるには違いない。


「……大丈夫だろう。お前も知っているだろう…ロキの隠密の、異常な優秀さは。………こいつの行動時間が夜である限りは、ほぼ無敵だ」

「それは……そう、だけど…」


これまでにも何度か、ロキは単独で危険な隠密行動をとっている。
囮役の仲間も連れず、補助も求めず、夜の闇だけを味方につけてたった独りで乗り込むのだが…不思議な事に、ロキは誰一人の目撃も無く成功させるのだ。