槍を大きく前に振りかぶろうと構えていたロキは、呼ばれると同時にピタリと動きを止めて構えを解いた。深く被ったままのフードの内で、瞬きを繰り返す。


「…面倒事はお断りだぞ」

「…任務に面倒も糞もあるか。………さっきのライの報告でお前も聞いたと思うが…バリアン兵士がやっていたという意味の分からない砂漠調査の情報………例の蜃気楼と関連性があるかもしれない。…重要な情報は上の連中が厳重に保管しているだろうが………それに通じる内部資料からなら、少しくらいは末端の情報を得られるとは思わないか…?」

「………つまり?」

やれやれと言わんばかりに苦笑を浮かべながら肩を竦めて見せるロキに、レヴィは一言言い放った。




「―――泥棒を働いてもらいたい。……内部資料を探すんだ」

「………そんなの、危険、過ぎる…!」

…途端、それまで終始口を閉ざしていたリディアが大声で叫んだ。
彼女の傍にいたサナは、真後ろから放たれた大きな声に思わずびくりと身体を震わせる。
サナの髪を梳いていたクシをギュッと握り締めたまま、リディアはズカズカとレヴィの前に歩み寄った。

……どんな話でも普段は首を縦に振るリディアだ。自分から反対の意志を、しかも声を張り上げて訴えてくるなど彼女にしては珍しい。

「……敵の、所にだなんて…危ない!………第一、関係してるかも、はっきり、分かってない………無駄足だったら、どうするの?…わざわざ…そんな…」

「…相変わらず、ロキに関しては過保護だな」

「…ちっ…違っ!?」

彼女の本心を突く事を鼻で笑いながら呟くレヴィに、若干顔色の悪いリディアの頬がサッと赤みを帯びたのが見えた。罰が悪そうに声を詰まらせるが…肝心のロキはというと………どうやら聞こえなかったらしい。盛大に欠伸をかみ殺している。
赤面を隠す様にサナの後ろに隠れたリディア。騒がしい異論が途絶えたのをこれ幸いとばかりに、レヴィは話を続ける。

「…さすがに城に忍び込めとは言わない。本拠地の警備の硬さは異常だという事くらい知っているからな」