彼の冷たい眼差しをゆっくりと辿って後を振り返れば、そこにはリディアに髪を梳いてもらっているサナの姿があった。

リディアは突き刺さる視線の気配に気付いてこちらに顔を向けてきたが、渦中のサナ本人は全く気がついていないらしい。意味の無い声を漏らしながら、膝元でじゃれついてくるティーを持ち上げたり下ろしたりと繰り返している。


何度見ても、サナはまるで赤ん坊の様に無垢で無邪気な少女にしか見えない。
砂漠の日差しとは異なる、暖かな淡い陽光にも似た穏やかな雰囲気を纏う彼女。


レヴィの言う通り、次から次へと謎が湧き出てきたのは偶然にもサナに出会ってからである。
…だが、それはただの言い掛かりでしかない。
レヴィの異常なまでの疑心には何かと手を焼くが、ライが顔をしかめる理由はそこではない。


サナが疑われている事が、一番の不満だった。

彼女は素性の知れない謎多き人間。疑われるのも無理は無いが、彼女の傍に一番長くいて世話をしてきたライには、分かる。


(…サナは、違う)

彼女は、何も悪くない。敵ではない。その考えに根拠など無いが、ライはそう信じて疑わない。
…サナに対する仲間達からの疑いに不満は募る一方だが、ライは何も言えずに両拳を力強く握り締めた。
そんなライの心中を知ってか知らずか…じっとサナを睨みつけていたレヴィは、彼女を指差して口を開いた。


「…普通に世話をするのは構わないが………尋問は欠かすんじゃないぞ。いつ記憶が戻るか分からないからな。…まあ、最初から演技という可能性も勿論あるわけだが」

「………」


揺るぎない彼の冷たい疑心に、ライは返事の代わりに小さく頷いた。
不満げな表情を浮かべていた筈なのだが、その点についてレヴィは何も言ってはこなかった。





「…話がずれたが…とりあえず、早々にスパイを潰すのが先決だ。ライは引き続き、聞き込みを続けろ。……それと、ロキ。お前に一仕事頼む」

ライに諜報活動の継続を命じると、レヴィは背後で相変わらず槍を振り回していたロキを呼んだ。