「その嗅ぎ回っている奴の素性が不明なのはまだ分かるが………男か女か、それさえも全く分からないのか?」
「……すみません。聞いた話では、男だとか女だったとか曖昧で…第一、人づてに聞いた話ですので…確証が無いんです…」
日が落ちた頃に隠れ家に戻ってきたライは、タイミングよくその夜に足を運んできたレヴィとロキに収集してきた情報の報告を行っていた。
…だが、不審な人間の事といい柱の蜃気楼の事といい、どれも進展が無く結局分からず仕舞いで終わってしまっている事に、案の定レヴィは眉をひそめていた。
ただでさえ目つきの怖い彼が不機嫌になると、醸し出される空気も一気に妙な緊張感を帯びて重くなる。それがあまりにも恐ろしく、何度経験しても目を合わせる事が出来ない。ロキといえば、この重圧の中で平然とした表情で磨いたばかりの槍を振り回している。何処でそんなスルースキルを身に付けたのかは知らないが…その予想以上に肝の据わった彼を、少しは見習うべきなのかもしれない。
この狭い空間で見事な槍さばきを見せるロキが、フォローをしてくれるのか、重い会話にさらっと割り込んできた。
「情報が無いってことは……つまりはそれだけ諜報に優れた奴なんだろうよ。目撃は最小限にとどめた上で、素性を全く広めさせない………その辺の雇われ密偵とは格が違うのさ」
「………もしそうだとしたら、だ。…そんな奴が俺達の敵なんだ。悠長に構えている暇は無い…こちらの情報が色々と漏洩する前に、一刻も早く叩いておく必要がある」
そう言って軽く睨めば、ロキはやる気の無い返事をして再び槍を振るい始めた。軽い舌打ちをしてこちらに向き直ったレヴィは、後頭部をガシガシと掻きながら深い溜息を吐いてきた。
「…スパイといい、妙な蜃気楼の噂といい………このところ厄介事が急に湧きだしたな。…………不思議だな、こんなに忙しくなったのは……お前がそこの小娘を拾ってきてからだ」
言い終わると同時に、切れ長の彼の鋭利な眼光がライの背後に注がれる。