彼女の話では、砂漠調査をしに訪れていたバリアン兵士らは最近では全く姿を見せなくなったのだそうだ。

…つまり、既にバリアン国家の企みの準備は終えている、もしくは既に始まっているという事なのだろうか。
どちらにせよ、相手の考えている事が分からない今、何の対策の仕様も無い。何が起きてもいいように警戒だけは怠ってはならない。


(…敵は砂漠で…何がやりたいんだ…?)

顎に手を沿え、ライは埃っぽい石床の表面をじっと見下ろす。
何処からか吹いてくる隙間風が、拾ってきた赤い砂埃をくるくると回転させながら床を這っていくのを眺めていると…ふと、その脳裏に一つの情報が過ぎった。

それは、今この時に全く関係が無い話なのかもしれないけれど。
…しかし何の確実性も無いからこそ…可能性は、ゼロではない。

俯いていた顔を上げ、ライは静かに口を開いた。情報が無い今、少ない要素を試しに結び付けてみるしかない。

「…最近、街で噂になっているんですけれど………蜃気楼の話…知っていますか?…何かこう、普通とは違う………柱を映し出した奇妙な蜃気楼なんですが…」

「………商人の方々から、小耳に挟んだことはあります。…何でも、昼間ならまだしも薄暗い夜明け前にも現れることがあるっていう…」

フォト親子の方にも、やはり蜃気楼の情報は入っている様だった。
不気味な怪談話の様な、確証も何も無い話だが……ライの頭にはずっと、それが引っかかっていた。



調べても無駄かもしれないし、そもそも調べようが無いかもしれないけれど。










「………その柱の蜃気楼の事…詳しく調べて頂いても、いいですか?」

「…バリアン国家との関連性があるのか、知りたいのですね…」


ライの考えをすぐさま理解したらしい彼女は、二つ返事で承諾をしてくれた。
何か分かり次第連絡をすると約束し、ライは席を立った。そのまま出入り口の扉に向かうライに、フォトの母親は最後に声をかけた。



「お気をつけて。…詳しくは知りませんが、貴方方の事を嗅ぎ回っている者がいるようです」