涼しい日陰で同僚や仲間等と共に喉を潤す客は、その短い休息の中で談笑を交わす。
気が緩んだその会話はただの世間話や個人の話ばかりなのだが…その中に、ごく稀に重要な情報の断片が紛れていたりするのだ。
内部の人間しか知らない様なそういった情報は、情報屋も入手出来ないものが多く貴重である。
騒音と一緒に飛び交う情報だ。聞き逃してもおかしくはないそれらを、この親子の耳は決して取りこぼしたりはしない。
これは、という情報を入手すれば、即座にその旨を報告する手筈となっている。
今回は情報入手の報告は無かったのだが、曖昧な情報でも一応耳にしておこうとライ自らが立ち寄った次第である。
ちょくちょく通っているせいか、フォトとはまるで本当の兄弟の様にすっかり仲良しだ。
今も動物の細長い骨を片手に、傍らで独りちゃんばらを始める少年の無邪気な雰囲気に癒されてはいるが、話す内容は真剣そのものである。
正確な期間は分からないが、昨年辺りからだろうか。
バリアン国家で着々と軍力強化が行われている話は、三槍にも既知の情報である。
国政を放り出して沈黙を続けている中での軍力強化。はっきりとした敵意も無ければ刃の矛先を向けてくる気配も無く、何とも得体の知れない不気味な国家の動きに、三槍は警戒を続けるばかりで思うように動けない状態が継続している。
下手に手出しが出来ない上に確かな情報も入ってこないとなると、フォト親子の様な民間人から得られる情報だけが頼りなのだ。敵の懐に容易く忍び込める彼等の目と耳は、相手の腹の底を知る事が出来る。
敵の拠点である城に入る事が不可能でも、城下の首都を歩く事は可能なのだ。
フォト親子は、その軍力強化についての情報を集めていた。
この宿屋に立ち寄る兵士等から集めに集め、確かな情報だけを繋いでいく。
それはまだまだ答えに到達する気配は無く、穴だらけの状態なのだが…調査の中で、フォトの母親はある違和感を覚えていた。