首都の郊外にある、比較的穏やかな空気が漂う田舎町。
その中にひっそりと佇むおんぼろの家は、旅人を癒やす小さな宿屋であり…。
そしてその宿屋を営む、一見平凡そうに見える宿屋の親子は…。
「…相変わらず、バリアン国家は沈黙を守ったままです。軍力強化の動きも見られるけれど…その目的がはっきりと分かっていないわ。最初は、貴方達三槍の討伐のための強化かと思ったのだけど…」
「……どうもそんな感じではない、ということですか?」
「………ええ」
先程まで浮かべていた優しい微笑は何処へやら。バリアン国家の情報を口にするフォトの母親は、今は真剣な表情でライの前に佇んでいる。
この親子の職は宿屋の経営。だがそれは表の顔であり、裏を返せば実は反国家思想を抱く革命派の人間だ。
彼女達は三槍の人間ではないが、三槍に味方してくれる民の者達であり、そしてその民間人という立場の仮面を最大限に活かした極めて重要な仕事を好意でやってくれているのだ。
国家を敵に回すということが、どれだけ危険であるかなど誰もが分かっている。しかしそれを承知の上で協力を申し出てくる民間人は少なくはない。正義感に溢れる彼等の好意は、三槍としては有り難いのだが…同時に罪悪感を覚える。
危険だと分かっていて、人々は手を貸してくれる。それはつまり、国の革命に命を賭けているということであり…。
重い代償を賭けられる程、自分達は偉くも強くもないのに…と、思う。
…僕らのために、危ない綱渡りをしないでほしい。………そう訴えても、拒絶しても、彼等は手を伸ばしてくるのだ。
フォトの親子は、街に立ち寄る旅人や首都近郊の情報を集めてくれている。
と言うのも、この街は広大なエデ砂漠の手前に位置しており、砂漠越えをした旅人やバリアンの兵士が一時の休息のために時に大勢訪れる事があるのだ。
何かしら仕事を終えた者、今から砂漠に乗り込む者が、この宿屋で暑い日差しから免れるべくやってくる。