街の周辺は元々人気があまり無いため、ガーラの巨体を隠すのは容易い。街を囲む古い外壁の影に回り込み、ライはガーラを置いて単身で街に入った。
見張りも警戒もない門には、野生のティーラが欠伸をしながら歩いているだけ。時々遊び回る子供の楽しげな声が聞こえてくるだけで、街は非常にのどかな雰囲気に覆われていた。
ほぼ毎日首都近辺の人通りの多い街で動いているせいだろうか。真逆の静かなこの街がライはとても好きだ。
剥がれた土壁の古い住居の群れを眺めながら、ライは歩む先にぽつんと佇む小さな宿屋を目指す。元は白かったのだろうが、すっかり日に焼けてこんがりと黒ずんだ土壁の年期の入った宿屋である。少々歪んだ表の扉には宿屋の名前が記されているが、こちらも同様に日に焼け過ぎてすっかり読めなくなっている始末だ。
人通りが全く無いため、営業しているのか廃業しているのか見た目では全く判断出来ないが、ライの足は迷わず直行した。 建て付けが悪い扉に手を掛けて少し力を込めて押し開ければ、扉の隙間からモワッと砂埃が吹き出す。
一瞬の空気の悪さに咳込みつつも中に入ると、その直後、薄暗い室内の奥から幼い声がライに飛びついてきた。
「―――兄ちゃん!」
目線より下の方から聞こえてきた甲高い声と共に、小さなシルエットがライに体当たりをかましてきた。
小さな身体を上手く受け止めたライは、そのままゆっくりと前に下ろす。
「やぁ、久し振り…でもないか。最後に会ってから1ヶ月も経っていないけど…フォト、元気だった?」
優しげに笑いながら話し掛けるライの正面には、十にも満たないであろう育ち盛りの少年が、一人元気よく飛び跳ねていた。
フォトと呼ばれた少年は、可愛らしいえくぼが浮かぶ満面の笑みでライを見上げてくる。
「おいら、この通りちゃんと元気だよ。背も前より少し伸びたんだ!本当だよ!毎日測って柱に印を付けているからね」
緩いダーバンで巻かれた頭を抱えて話しながら、フォトは意味もなくライの周りをグルグルと走り回る。