「…とんだ災難でしたね、オヤジさん」
そう言って笑うライに、オヤジは先程の喧嘩の名残があるのか若干不機嫌だったが、ニヤリと悪そうな笑みを返してきた。傷だらけの悪人面に、その笑い方はとてもよく似合う。
仕事を終え、さぁ帰路につこうと別れの挨拶を言ったライに対し、手元の古びたゴブレットに酒を注ぎ足していたオヤジの手が、ふと止まった。
何か思い出した様にライを見ると、太い彼の人差し指がこちらを無遠慮に指さしてきた。
「…そういやぁお前、最近急に休みがちになったな?少し前までは毎日来てただろ?」
「………あ…えっと…」
オヤジの唐突な質問に、ライは思わず言葉を詰まらせた。
オヤジの言うとおり、ライは数日前までは毎日毎日この情報屋に来ていたのだ。だがしかし…。
(…サナの世話が…あったからなぁ…)
…そうだ。数日前にサナを拾ってからは、彼女の世話に付きっきりで、しばらくはこの店での情報収集がご無沙汰だったのだ。
ライは一応、身寄りの無いただの何処にでもいる孤児…として、外で生きている。
明日の飯にも困る極貧生活の身である孤児が急に働きに来なくなれば、不思議に思うのも無理はない。
…情報屋のオヤジはその職業柄故に、とにかく感が鋭い。
これでライが三槍の人間であると感づかれる事は無いと思うが…多少なりとも、不信感を覚えられたのかもしれない。
「…あの……実は具合が悪くて、来れなかったんです」
「…具合?………もう大丈夫なのか?」
そのひそめた眉は、果たして心配してくれているのか、もしくは疑っているのか。
どちらにせよ、とにかくこの場を自然に切り抜けなければならない。
背中に嫌な汗をかきつつ、ライは何度も頷いて見せた。
「大丈夫!大丈夫です!ただの物凄い鼻炎と筋肉痛だったみたいで、三日も寝ていたら治りました!あ、明日も来ますから、よろしくお願いします!それでは!」
「…ああ、身体には気をつけ………………行っちまった…」