…と言うや否や、ユアンは男二人の壮絶な喧嘩に颯爽と割り込んでいった。
彼の言っている意味がいまいち理解出来ずにいるライの前で、空気を読まないユアンの言葉が弾ける火花を一気に寸断した。

「すみませんが商人のおじさん、その大きな鳥の話をもっとよく聞かせてもらえませんか?」

…爽やかな笑顔を添えた穏やかなユアンの介入は、喧嘩を止めるには充分な効果を発揮したらしい。それまで青筋を立てて唾を飛ばしていた商人の男の顔は、見る見るうちに輝いていった。

夢を語る人には、夢に耳を傾けてあげるのが一番である。

商人はオヤジとにらみ合っていた事などころっと忘れたかの様に笑みを浮かべ、楽しそうにユアンに向かってその饒舌を再開した。


「誰かと思えば先生様じゃねぇか!あんたも信じてくれるのかい!いやぁ、いい医者もいるもんだな!」

「おだてたって診察料は絶対に値切りませんから。僕はそういう浪漫溢れる話は大好物でしてね。あぁ、目撃した人達の話も聞きたいです。その方々に取材して、より理解を深めたいものです」

ここはなんですから、あちらの飲み屋で盛大に語り合いましょう…と上手く誘導し、ユアンは千鳥足の商人を連れて颯爽と店から離れていく。

「でっかい鳥さ!銀の鳥だとわしは聞いたんだ!わしも見てみたい!」

「銀色かぁ。いい色です。銀貨の色ですね。…鳥が見れる場所があるのかもしれませんね。それはやはり目撃情報を改めて整理しなければなりません」

夢やら浪漫を語る嬉々とした会話を重ね、二人はのんびりとオヤジの店から遠くに歩いていった。…先程までとは違う静寂な空気が、待ち遠しかった筈なのにやけに物寂しく思える。

…医者は凄いと聞いていたが、その場の空気さえも浄化してしまうのか。

やはりユアン先生は先生なのだな…と少しばかりの感動を覚えると、ライは静かになった軒先に移動し、いつも通りオヤジに駄賃を要求した。


無造作に懐から取り出した数枚の硬貨を、オヤジはライに投げつける。