「―――羽さ。空一面を覆うくらいの巨大な羽が、頭上を羽ばたいていたんだとよ……見えたと同時に物凄い突風が来て、次に目を開けた時には…雲一つ無いただの空が広がっていた……………すげぇだろオヤジ!デカい羽!サラマンダーよりも巨大な鳥だぜ!」


話しながらも絶えず口に運ぶアルコールが、商人を興奮させているらしい。オーバーリアクションを交えて大声でわめき散らすそれに、オヤジはいつの間にかそっぽを向いて煙管をくわえていた。世間話ならまだしも、金にならない酔っ払いの戯れ言は流す方向で決めた様だ。
独り上機嫌で飛び交う商人の声は、尚も夢幻の噂話を夢中で語っている。この殺人的猛暑の下で…それにしても元気な男である。

「…あぁ?その目は信じちゃいねぇな?今言った子供だけじゃねぇ…他の村の奴らにも見たって奴がいたんだからな!」

「サラマンダーより大きいって、凄いですね」

商人の興奮振りに、ついテントの影から顔を覗かせてそう応えれば、ライの脳天にオヤジの無言の制裁が落ちた。
兵士でもないのに何故そんな筋肉を付けているの?…と問いたい位の勇ましいオヤジの拳骨に、ライはその場で頭を抱えて座り込んだ。

さっさと仕事をしろ…と頭上からオヤジの物言わぬ威圧感が注がれている気がする。
ライの返事に商人のテンションは更に上がる。

「そうだろう、そうだろう!!もしかすると古代の魔物かもしれねぇ。子供の話でも最初は一体何が空を飛んでいたのか分からなかったんだが……他に見たって奴の内の一人が教えてくれたんだよ。あれは鳥だよ、銀の鳥だ…ってな!」

「そうだな、凄い夢話だな。とりあえず酒代置いてとっとと仕事に戻りな」

他の客の邪魔だとばかりに酒代を要求するオヤジと、悪態を吐く商人の口喧嘩が始まりそうな気配を察し、ライはこそこそとテント裏に戻った。
数秒の間を置いて、案の定ドスのきいた男二人の汚い罵り合いが始まった。


殆どの単語は意味の分からないものだが、恐らくとんでもなく汚い言葉に違いない。