いつからか。
いつの間にか傍にいたその異質なる者は、現れた当初は鬱陶しい事この上無い存在だった。
それまでの長い間、“気高き者”はこの闇の世界で孤独を貫き歳月を経てきていた。その静寂な時の流れに、自分以外の他者という存在が割り込むことなど、記憶を辿る限りは無かった筈だ。

他者の気配だけならまだしも…この異質なる者は、人の言葉を介して恐れ多くも自分に声をかけてきたのだから、長年使っていなかった我が耳を疑ったものだ。


いくら無視を決め込んでも、異質なる者は懲りずに話しかけてくる。
近寄る事も無ければ離れもせず、最初に現れた位置から微動だにしないままただただ言葉を投げ掛けてくる。


鏡の如く滑らかだった闇の空間に、異質なる者の声が波紋を幾重も作られていく。




それがとにかく不快で、不愉快で、苛立ちなどという人間臭い感情を久方振りに覚え始めて……。

いい加減にしろと言わんばかりに、とうとう異質なる者に一言応えてしまってからは………不思議と、胸中に渦巻いていた暗雲が晴れていったのを今でも覚えている。


返事をしたことで異質なる者は生意気にも調子に乗ったのか、事あるごとに話しかけてくる様になった。






それからというもの…一々返事はしないが、異質なる者の言葉に“気高き者”はごくまれに応える様になった。




以前の様に、不快な感情は浮かんでこない。

不思議なものだ。









今もそうだ。


『世界』の景色を見上げて溜め息を漏らす“気高き者”に、背後にずっと佇んでいる異質なる者は、静かに言葉を紡いでくる。




『―――貴方様の目には、あの蜃気楼がどの様な姿で映っているのですか?…その様に溜め息を漏らす程の、厄介なものであるには違いないと推測致しますが………生憎、私の目にはただの気味の悪い蜃気楼にしか見えません』


笑みを漏らす異質なる者の言葉に、“気高き者”は二度目の溜め息を漏らした。




闇色以外何も見えない底の底で………“気高き者”の唇は、厳かな響きの音色を奏でる。











“―――愚カナ火種。愚カナ、人ノ強欲ノ種ナリ…”